スイカの皮や種、ブルーシートに派手に飛び散った果汁などの片付けが終わった頃には、辺りは夕焼けに染まっていた。


「いやあ、後片付け大変だったわあ」

「うちにあった中で一番いいの持ってきたから」

自慢気に言う奏に「そーですね」と返す。

自分がどれだけ下手な割り方をしたかにはまだ気づいていないらしい。というか、もうここまできてしまったら気づくことはないと思っていた方がいいかもしれない。


「どうする? 暗くなるまで」

私は夏の夕焼けを見上げ、2人へ視線を戻した。

「なにか話題って……」

奏が私と芹沢くんを交互に見る。

「俺は特に」

「私も……」

特にないかな、と言いかけたところで、長年の疑問を思い出した。

「一番星ってさ、結局どんな星のことを言うの?」

「ああ」と言ったあと、奏は自信あり気に笑った。

「季節とか場所で変わってくるんだけど、この時期……」

予想以上に難しいことを語り出した奏の服を、後ろから芹沢くんが引いた。小さく声を漏らし、奏は芹沢くんを見る。

「なに?」

そういう小難しい話はいいんだよ――小声でよくは聞こえなかったけど、芹沢くんは奏の肩に腕をまわし、私に背を向けてそんなようなことを言った。

「僕 星は得意だよ?」

「そういうことじゃねえし。笠原は簡単な、かんったんな共感を求めてんだよ」

「そうなの?」

そんなことを話しながらこちらを見た奏を芹沢くんが引き戻す。

「んな小難しい話を好むやつに見えるか」

「興味はありそうじゃない?」

目を閉じたり深呼吸をしたりしていたけど、絶妙に聞こえてくる2人の会話に我慢ができなくなった。息を吸うと同時に目を開ける。

「聞こえてるしっ。なんかよくわかんないけど……私をけなしてるのはわかってるしっ」

途中で噛みそうになりながら叫ぶと、2人は戻ってきた。

「いや、ちょっとな」

芹沢くんは鼻にかかった決して大きくはない声で言うと、嘘くさく口角を上げて小さく頷いた。

「確かに思ったより難しそうな話だったけど、止めるほどじゃないしっ」

こいつの話えらい長いぞ、と言う芹沢くんを奏が睨む。やべ、と言うように芹沢くんは口元に手を当てた。

「ああ、で一番星だっけ? いいんじゃね、人それぞれで」

だめでしょ、と呟いた奏の服を、芹沢くんがもう一度 引っ張る。奏は苦しそうな声を漏らすと、服の首元を前に引っ張った。

「じゃあ私は、その日一番最初に見つけた、一番光ってるって思った星を一番星って呼ぶことにする」

「じゃあ、今日はあれ?」

奏が、すっかり日が落ちた空に光る1つの星を見上げた。