私はコーラ味、芹沢くんはレモン味のかき氷を買って戻ると、奏は小さく唸りながら体に乗った砂の重さに耐えていた。

「あれ奏。まだ埋まってんの?」

芹沢くんが意外そうに言う。

「誰のせいだと思ってんの。氷も1個足んないし」

芹沢くんは苦笑すると、奏のそばにしゃがんだ。私はその向かい側にしゃがむ。

「助けて、って書いたんだけどな」

「えっ?」

山をまたいで芹沢くんの隣に行くと、山の上に『HELP ME〜助けて〜』の文字が確認できた。

「書くんじゃなくて瞬くんたちが助けてよ」

「あー、そうなんのかあ」

「今いるのがちゃんとした穴の中ならいいよ? でもこれ、砂の敷布団に砂の掛け布団みたいなもんだからね?」

「でもまあ、気持ちは悪くないだろ?」

「だからすでにあちこち痛いって言ってんじゃん」

「ああ、毒素が出てんだよ」

「ああもう、掘らないからだっつーのわっかんないかなあ」

2人のテンポのいい会話を聞いていると、つい笑ってしまった。

2人はなぜ笑われたのかわかっていないらしい。


「あっじゃあ奏、氷一口食べる?」

どちらかと言えば本気で言ったその言葉に、奏の目が輝きを取り戻した。その目を見て、やばいなと思った。いつかの綾美の気持ちがわかってしまった気がした。

遅刻した上に、あると思っていたお小遣いがほとんどなかった、私にとって最悪な、あの日の綾美の気持ちが。


「はい、あーん」

一度 奏の口元へ持っていった一口分の氷をUターンさせて自分の口に入れると、奏は「ねっ」と頷いた。

わかってはいるんだよ、といった表情だ。こうされるのはわかっているけど期待してしまう、わかるよ、その気持ち。

「じゃあこれやるよ。まだ手つけてないし、食うならもう1個買ってくるし」

芹沢くんが自分のかき氷を見て言った。

「待て待て。氷の前にこの砂どうにかしようよ。話それからじゃない? 普通」

「いや、俺としては砂の前に氷かな。溶けるじゃん」

たくさんの楽しそうな声が響く砂浜で、奏は盛大にため息をついた。