「えっ、俺?」と少し驚いたように芹沢くんは自分を指さした。

「僕ね、ちょっと説明ができないの」

うん、と奏くんが自分の言葉に頷くと、芹沢くんは「まじか」と苦笑した。

そして私の問題集を覗き、あーあと言って自分の問題集を開いた。

芹沢くんが自信がないと言っていたのはこの化学の辺りなのかもしれない。


時々 奏くんの納得するような声が邪魔してきたものの、芹沢くんの説明はわかりやすかった。

「……大丈夫?」

「うん。奏くんのよりはわかった」

教わっておいて失礼だと思いながらも本音を言うと、奏くんは「だよね」と笑った。

「僕も勉強できたもん。説明の」

奏くんはしれっとむかつかせてくれると、自分の問題集を見て小さな声でなにか言い始めた。


「ありがとね」と芹沢くんに礼を言うと、「わかってはいるから」と芹沢くんもむかつかせてくれた。こいつは狙って言ってるから余計にむかつく。


「てか奏、説明ができないって」

芹沢くんが突っ込むように、問題集に話しかけている奏くんに言った。

奏くんは問題集を机に置き、「ね」と自嘲気味に笑った。

「僕 国語系がまるでだめでさあ。理科でも物質の名前間違えたりすんの」

「それ理科がだめなんじゃないの?」

“それ”の部分が私と被った芹沢くんの声に、「漢字 漢字」と奏くんは嫌そうな顔で自分の問題集を とんとん と叩いた。