確かに彼らは人間離れしているけど、ここへくるまでに奏くんの意外な一面が見られた。

奏くんは、安全運転を通り越して危険運転と言えるほどに自転車を漕ぐのが遅い。女の私が遅めに漕いでも遅いと思うくらいだ。

あれはあれで人間離れした遅さだったけど、完璧の中に かわいらしい部分を見つけられた気がして嬉しかった。


休みたいと願う体を動かしてシャーペンを握ってから、わずか数分。理科の苦手な方から始めてしまったため、早速分厚い壁にぶち当たった。化学とかいう理科に属する分野が数学にしか見えない。


「はあ……」

私はため息をつき、ページの半分に問題集を重ねたノートに伏せた。

「……笠原さん?」

隣から優しい奏くんの声が聞こえた。私が唸ると、化学苦手なんだね、と奏くんは笑った。苦手どころの騒ぎじゃないけど、それは内緒にしておく。

そこか、と呟き、奏くんは自分のノートをめくった。ぺらぺらという音が止むと、悩むような奏くんの唸り声が聞こえた。

教えてくれるのかな、と思いやっと顔を上げる。

「そこでしょ? 中学の続きみたいなもんじゃん」

「そのちゅ……うん、そうだね」

その中学校の内容もほとんど残っていないんだな、この頭には。呑み込んだ言葉を心の中で呟く。


奏くんは私が開いている問題集のページの内容をざっと説明してくれた。

だけど申し訳ないことに、私の耳に届く頃には奏くんの説明はもはや日本の言葉ではなくなっていた。

私がなんとか奏くんの言葉を日本語に直そうとしていると、奏くんは はむっと唇を噛み、しばらく自分のノートを眺めたあと、前に座る芹沢くんを上目遣いに見た。つられて私も芹沢くんを見る。