七夕から1週間が経った教室は、来週から始まる夏休みに胸を躍らせた生徒たちによってどこかそわそわした雰囲気に包まれていた。
今朝 自転車置き場で会った綾美や咲菜も、いつもよりテンションが高かった。
賑やかな昼休みの教室、自席で空を眺めてため息をついた。もう本当に嫌だ、と気持ちが声に出そうになったとき。
「どうした?」と静かな優しい声が聞こえた。
唸りながら振り返ると、心配してくれているような芹沢くんの顔があった。
「芹沢くん……」
「なに。どうした」
「来週にはもう、夏休みじゃん?」
「そうだね」
「宿題、できそうにないんだよお」
どうしよう、と遠回しに夏休み中の助けを求めると、芹沢くんは私から目を逸らし、形のいい唇を舐めた。芹沢くんの視線が帰ってくる。
「……付き合おうか?」
「えっ?」
求めていた言葉だけど、いざ聞いてみると確認したくなった。
「宿題。近くに図書館がある」
「えっ、教えてくれるの?」
「勉強くらいなら、いくらでも」
芹沢くんはちょっとむかつく言葉を真面目な顔で言い、私の答えを待つように見つめてきた。
「嬉しい。ぜひ教えて?」
笑顔で言うと、芹沢くんは「喜んで」と微かに口角を上げて頷いてくれた。
「お礼は必ずするからさっ」
もう夏休みの宿題も楽勝だぜ、とこっそり教室内の誰よりも1週間後の夏休みを楽しみにした。