自動ドアの外は、まだ夕焼けにもなっていなかった。夏は時間の感覚が狂うなと思ったとき、冬は冬で日が短くて時間がわからなくなることを思い出した。


「いやあ、ほんっとに楽しかった。ありがとね、いろいろ」

「いやいや、全然」

自転車のスタンドを上げながら言うと、芹沢くんは当たり前のように言ってスタンドを上げた。


私としては結構なスピードでペダルを漕いだけど、芹沢くんは学校のすぐ近くであるここまで涼し気な顔で隣から後ろ辺りをついてきた。

自転車を飛ばすのには自信があったけど、さすがに男子には敵わないらしい。


「芹沢くん、家どっち?」

家の方向によっては別れることになる場所まで残り数十メートルという頃、私は優雅に自転車を漕ぐ芹沢くんに訊いた。

「とりあえず左だけど……」

「あ、そうなんだ」

少しして、別れることになった場所でブレーキを掛けた。

軽く息が上がっている私の隣に止まった芹沢くんは、今まで全く動いていないかのように落ち着いている。すごいな、この人。


「じゃあ、ここで」

「あ、右?」

「うん」

私が頷くと、芹沢くんは手首を見て一瞬迷うような表情を浮かべた。

「いや、送ってくよ」

「いやいいよ」

危ないから、と言う芹沢くんに、食い気味で遅くなっちゃうから、と返した。

すると芹沢くんは「そっか」と頷き、「気をつけて帰れよ?」と言ってくれた。

顔がいい上に性格もいいなんてどこまでも完璧だね、と思いながら「ありがとう」と言って先ほどのように笑顔とピースサインを残し、右へハンドルを切ってゆっくりとペダルを漕ぎ始めた。