芹沢くんの顔を睨むと、綺麗なその顔に困ったような笑みが浮かんだ。

「じゃあこれでいいじゃん」

芹沢くんが指さしたのは、紺色の無駄にかっこいい扇子。

「渋すぎでしょ。私、女子高生」

言いながら私は、扇子と自分を指さした。

芹沢くんはハハッと楽しそうに笑うと、少しだけ放つオーラを真面目にして扇子へ視線を戻した。

時々 扇子から戻ってくる、すっかり真面目になった芹沢くんの目から逃げたくなった。

あまり見ないで、と思いながら我慢していると、芹沢くんは小さく唸って1つの扇子に手を伸ばした。

「じゃあこれは?」

芹沢くんが手に取ったのは、淡い黄色地にピンク色の桜の花びらが舞っている、先ほどのものとはまるで違うかわいらしい扇子だった。

「わあ かわいいっ」

芹沢くんから扇子を受け取り、「ちゃんとかわいいのも選べるんじゃん」と笑った。

「うるせえ」と言う芹沢くんも笑っている。

「こっちと迷ったんだけどさ」

芹沢くんが次に手に取ったのは、私が持っているものの、黄色い部分が紫色のもの。

デザインは同じなのに、黄色のこちらとはまるで違う雰囲気を放っている。桜の周りの少し濃い紫色は、桜を夜桜へ変身させた。

「かっこいいね。ああ……でも私はこっちかな」

少し大人っぽすぎて、自分には合わない気がした。芹沢くんも「だよな」と言う。

「え、でそれ買うの?」

「うん。芹沢くんが選んでくれたから」

これからこの扇子を使うことを想像し、自然と浮かんだ笑顔で手元の扇子を眺めた。

「この1200円は高くないの」

「うん大丈夫。ぴったり持ってるから」

笑顔とピースサインを残し、十分高いと思うんだけど、という芹沢くんの声を背中で聞きながら扇子と共にレジへ向かった。