「ああそうだ、2人って何月生まれなの?」

ふと浮かんだ質問を投げ掛けると、窓の外を見ていた芹沢くんが振り返った。

質問に深い意味はない。ただ、奏くんとも芹沢くんとのように話せるようになりたいだけだ。


奏くんと初めて言葉を交わしたのは、去年の11月30日、私の誕生日だ。

2年に上がってからも特に会話という会話はしておらず、先ほどの、芹沢くんに本気で嫌がられていたら――というのが、一番長く続いたキャッチボールだった。


ふと、自分が奏くんとの距離を縮めようとしていることに気づき、咲菜の存在を思い出した。

教室のドアの前で綾美と話している咲菜へ視線を向けると、彼女はすぐに気づいた。

そして私と目が合うと、目の奥にどこか自慢気な光を宿し、頑張れ、と口パクで伝えてきた。

にやにやと笑う咲菜を、冗談じゃない、そういうつもりはないから、という思いを込めて睨みつけ、2人との世界に逃げ込んだ。


「誕生日かあ……」

奏くんは、黒板の隣、時計の下に貼ってあるカレンダーを眺めて呟くと、「そういえば」と続けた。

「僕、瞬くんの誕生日知らないかも」

カレンダーからこちらへ視線を移しながら言った奏くんに、芹沢くんは「言ってないかも」と特に表情を変えることなく言った。

そして続けるように、「奏は2月だろ?」と言った。奏くんの大きな目がさらに大きくなる。

「えっ、なんで知ってるの?」

「前に言ってたろ」

「えっ、覚えてない」

よく覚えてるね、すごい、と芹沢くんを絶賛する奏くんは、私には少しかわいく見えた。

そしてまた咲菜のことを思い出し、教室の外を見ると、彼女はまたにやにやと笑いやがった。

私は今度は気づいていないふりをして視線を戻した。


「芹沢くんはいつなの?」

「俺は4月」

26、と語尾に疑問符がついた芹沢くんの声に、私はなんで自分の誕生日が曖昧なの、と笑った。

「私は11月。11月30日」

ふうん、と頷く奏くんの声は、あの日のことを覚えているかはわからないものだった。

奏くんの声から少し間を空け、「冬なんだ」と呟く芹沢くんに、「秋だから」と瞬時に反論した。