新しい教室にも、1週間もすれば慣れていた。授業中は、夕方家に帰ってから電話越しに聞いていた芹沢くんの解説を生で聞いて、昼休みは綾美や咲菜と一緒にお弁当を食べて。
新たな1年が始まってからまだ1週間しか経っていないのに、去年よりも充実しているように感じた。
「ちょっ。芹沢くん、ヘルプ。ヘルプミー」
晴れた日の数学の時間。私は泣きそうになりながら芹沢くんに助けを求めた。
「なに」
芹沢くんは自分のノートを取りながら言った。
「さっき先生が言ってた……これ。これってどうするの?」
私がノートの一部をシャーペンでさすと、芹沢くんは自分のノートから私のノートへ視線を移した。
「ああ、だからこれは――」
芹沢くんは、私が何度助けを求めようと優しく教えてくれた。
「あっ、じゃあこことここ……」
芹沢くんがくれたヒントを頼りに頭の中を整理していると、去年綾美のライバルであった鈴木先生のわざとらしい咳払いが聞こえてきた。
「ああもう、待って。……これが……」
「笠原。俺、今日だけで4回は言ったからな。後ろを向くなと」
「ああもうっ。わかんなくなっちゃったじゃないですか」
前を向く途中、自分の机にノートと教科書を開いた状態で放り、思い切りため息をついた。すると先生は、お前は最初からわかってないだろ、とでも言うように肩をすくめた。
先生の聞こえない声に、私がわからないのは私のせいじゃないでしょうと聞こえない声で返す。
彼は教えることが仕事だというのに、もう少しわかりやすく説明することはできないのだろうか。
念を送りながら背中を睨んでも、鈍感な先生には1ミリも届かない。



