着替えや昼食、洗顔などを済ませると、家を出るのにちょうどいい時間になっていた。

録画した番組を観ながら寝てしまったお母さんに置き手紙を残して家を出た。起こして伝えてもよかったのに、まったく優しい娘だと思う。


咲菜は『藤井』という表札の前で待っていてくれた。数十メートルも離れているのに、両手を大きく振っている。


「愛ちゃーん。待ってたぞーっ」

私も緩やかな坂を下りながら左手を振る。

「お待たせーっ」

藤井家の前で自転車から降りると、咲菜は早く早くと私の腕を引っ張った。何度もきていて慣れているせいか、我が家のように入れる。

邪魔にならない場所に自転車をとめ、玄関のドアを開けて手招きする咲菜の元へ駆け寄った。玄関の中には、去年まで休日の度に見ていた光景が広がっている。