あれからかなりの間、咲菜はまるで説得するように私と奏くんの未来を語った。
これから廊下で会う回数が増えるとか、なんなら2年に上がったら同じクラスになって距離が縮まるとか。
あのときは、そんなわけないと言いながらもそうなったらすごいな、なんて思ってしまったけど、やはりありえない。
私はどこまでも普通な人だし、奏くんなんてハードルが高すぎる。ハードルが鳥居になってしまう。
咲菜に今ハマっている少女漫画でもあるのだろうかと考えながら小さくため息をつくと、携帯が着信を知らせた。
画面には『藤井 咲菜』と表示されている。
またファンタジックなラブストーリーだったらどうしようかと思いながら出ると、こちらにもしもしの4文字を言う暇も与えずに、相手の元気な声が聞こえてきた。
『ハローっ。愛?』
「いやいや、愛に掛けたんでしょ?」と苦笑する。
「で、どうした?」
『あのねえ? なんかねえ?』
なぜか変に遠回しだったけど、要は暇なので用事がないなら来て欲しい、とのことだった。
「いいよ」
綾美は3学期の最終日、この春休みはひたすら寝て過ごすと言っていた。そのあとに続いた、しばらく会えないねという言葉の通り、綾美からのお誘いはなかった。
「……何時?」
電話の向こうにいる咲菜に尋ねながら壁の時計を確認すれば、針は12時15分を少し過ぎたところをさしていた。
『じゃあねえ……半。12時半に家出てきて』
私が「了解」と言うと、咲菜は『その間に部屋片付けるから』と付け加えた。
「じゃあ、半ね」
『はいー。ありがとでーす』
「はあい」
電話を切り、とりあえず着替えようとタンスの中を眺めた。そうしながら、咲菜と遊ぶのはどれくらい振りだろうと思った。



