話題は、私が振った互いの友達についてに変わった。
「もし喧嘩になったら、どっちが謝るの?」
芹沢くんと大野くんは、喧嘩にもならないほどくだらない話をしていると聞いた。そんな2人がもしも喧嘩をしたらどちらから謝るのかと尋ねると、芹沢くんは小さく唸った。
『特に謝るってことはないんじゃん? 気づいたらいつも通り、みたいな』
「へえ。なんか本当に友達って感じだね」
『……ああ、でも案外 奏の方がすげえ引きずるかもしんない』
「えっ、奏くんそういう感じなの?」
普段は温厚だけど、怒らせると怖いタイプか。まあそう見えなくもないのかな、と思ったとき、自分が大野くんを“奏くん”と呼んでしまったことに気づいた。
しかし芹沢くんは、それが当たり前であるように話を続けた。
『なんかいるじゃん、忘れていいことだけは覚えてるようなやつ』
「ああ、わかるかも。私、大昔にやった失敗とか掘り返された」
『ハハッ。だから奏がそういうやつだと、しばらく口は利かないかもな』
「恐ろしいね。芹沢くんたちが喧嘩して口利かないって」
想像しただけで怖い。あの美しい無表情に怒りが滲み出ている2人。怖すぎる。
『まあ、俺はそんなんじゃないけど』
「そんな?」
私がオウム返しすると、『俺は優しいから』と意外な言葉が返ってきた。
「そうは見えないけどねえ」
『んー……よし。とりあえず眼科行こうか』
「嫌だよ。私視力だけはいいんだから」
ふと、お互いふざけたことを言っていることに気づき、私は芹沢くんとこんな友達になりたかったんだと思った。こんなふうに、くだらないことを言い合える友達に。
しばらくして電話を切ったあとは、自然と笑みが浮かんだ。