4時間の授業が終わり、昼食の時間になってから事件は起きた。今朝お弁当作りを諦めた私は、悲鳴を上げ続けるお腹をさすりながら財布を開けた。

しかし最近は、よく想定外なことが起きる。少し前には芹沢くんに電話が掛かってしまい、今朝は小嶋が自分の上をいく5度寝を暴露した。そして、今この瞬間。財布の中に100円玉が1枚も入っていないのだ。

僅かな期待を抱き、財布の中の5円玉や10円玉を全て合わせたけど、とても昼食を買えるほどの金額にはならなかった。

目の前で美味しそうなお弁当を頬張る綾美にそれを話すと、爆笑された。

「ハッハッハッ、ほんと、んふふ」

「笑わないでよ。こっちゃ死にそうなんだから」

「大丈夫だよ。人間1日食べないくらいじゃ死なないから」

「普通の人はそうでも私にはその可能性が大いにあるの」

言った直後にお腹が悲鳴を上げた。本当に悲しい。

「……食べる? 玉子焼き」

気持ちを察したように私とお弁当箱を交互に見る綾美が、いっそ神様のように見えた。

「本当にいいの?」

綾美は頷くと、「あーん」と玉子焼きを挟んだ箸をこちらへ持ってきた。

そして小さく口を開けた直後、その箸はUターンし、綾美の口の中へ消えていった。

「ひどい。綾美ひどい……」

泣きそうになりながら下唇を突き出すと、綾美はくくくと笑った。

「気が変わっちゃった」

「気まぐれな小悪魔め」

再びお腹が悲鳴を上げたので、なんとか空腹を紛らわせようと水筒の中身を半分ほど飲んだ。

昨日、この中身を1滴も飲まなかったのが唯一の救いだった。