やばいやばいと呪文のように繰り返しながら辿り着いた自転車置き場には、予想通りの光景が広がっていた。全員分の自転車が置いてあり、先生も生徒もいない。


「やばい。あーやばいっ」

早く早くと自分自身を急かしながら最後の空きスペースを埋めると、重たい鞄と共に教室までの道を走った。

置いてくるつもりのなかった腕時計を置いてきてしまい時間はわからないけど、私の感覚が正しければまだチャイムは鳴らない。


教科書ってなぜこんなに重いんだろう、と答えの出ない問いを頭に浮かべながら階段を上り切り、『1年2組』というプレートの出た見慣れた教室に飛び込んだ。


「うおっしゃ、間に合ったあ」

チャイムは、最高に明るい気分でその言葉を吐き出した直後に鳴った。

「遅刻だよっ」

幸せな私の声に、小嶋が現実を突きつける。わかってはいた。遅刻だということくらい。学校まで本来、30分も掛かるのだ。8時25分に起きて間に合う方が間違っている。

私は引き出しから言い訳を取り出した。

「だって布団がっ。行かないでって言うからっ」

「そんなわけあるか」

最高峰の言い訳を差し出したつもりでいたのに、現実的な小嶋の考えに潰されてしまった。

「もう。先生だって普段3度寝くらいしてるでしょ?」

「5度寝だよっ」

小嶋はなぜかキレ気味に言った。「まじか」とほぼ無意識に言葉が漏れる。まさかの自分の上をいく5度寝。さすがに想定外だった。