10月に入ると、制服は冬服になり、気温も羽織物が欲しくなるような日が続き、本格的に秋と呼べる季節になった。
芹沢くんとは、昼休みは廊下で会い、家に帰ってからは電話で話すというのを続けている。電話で話すのは、お互い宿題をやりながらというのが多かった。
それは今日もそうだった。
電話を掛けるのは、最初のうちは午後の授業での出来事を話したいからというのが多かったけど、最近はなにかを話したいからというよりも、宿題を教えてもらうために電話をしているような感覚になっている。
芹沢くんに教えてもらうようになってから、宿題に要する時間がかなり短くなった。
今日の宿題も、芹沢くんのおかげで早めに終わらせることができた。
宿題が終わってからは、電話を切ってしまえば忘れてしまいそうなくらいにくだらないことを話していた。
「あっ。そういえば芹沢くんってさ、得意な教科ってあるの?」
『得意……ってのは特にないけど』
「そうなんだ。じゃあ……苦手な教科は?」
『それはない』
質問から回答まで、間はほとんどなかった。
「はあん、そうですか」
得意な教科も苦手な教科もない。普通にやっていれば平均ではいられる、とでも言いたげじゃないか。苦手な教科しかないような私には、羨ましいというより自慢にしか聞こえない。
あの即答ぶりがまた絶妙にむかつかせてくれる。
しかし宿題ではかなり助けられている。口に出すことはできなかった。
ふと壁の時計に目をやると、電話を掛けてからかなりの時間が経っていた。
「ごめん、今日も長話しちゃったね」
『ああ……大丈夫だよ』
「またそうやって」
切れなくなるじゃん、と聞こえない声で続けた。
「ああじゃあ、話が弾む前に。バイバイっ」
『おう、また』
携帯を耳元から離し電話を切ると、今日もなんだか明るい気分になった。