少しすると、なにやら紙袋をいじるような音が聞こえてきた。目を開けようとしても瞼が重いことから、自分が本当に寝てしまっていたことに気づく。

なんとか目を開ければ、黒板の前で大きな地図と格闘する小嶋の姿がぼんやりと見えた。


「先生うるさーい」

私寝てるんですけど、と続けてしまいそうになったのをなんとか呑み込み、再び腕を枕にして目を閉じた。

「おお笠原。いいところで起きやがった。ここ持っててくれるか?」

「はあ?」

二度寝の世界への道を邪魔され、薄っすらと目を開けて小嶋を見る。きっと、睨んでいるとしか言えないような目で。

「だから、ここ持って」

「ケッ」

人様にものを頼むときは頭を下げろって教わらなかったのかなと心で呟く。私をなんだと思っていやがる。

私は盛大にため息をつき、綾美にクスクスと笑われながら前に出た。

「どこでございましょうかあ?」

あくびをしながらわかりきっていることを訊けば、「何度も言わせるな」と言われた。「なにキレてんですか」と言うと、後ろから数名の小さな笑いが聞こえた。

「先生、笑われてますよ」

「お前だよ」 

2人で小声で話しながら、頼まれた箇所を押さえた。睡眠を妨害された上にこんなことも手伝ってあげるだなんて、自分はいい生徒だと思う。

「じゃあこれ。そこくっつけて」

「しょうがないなあ」

私は雑用係ですかと思いながら、手に載せられた磁石を指定された位置に置いた。

「ていうか、なんでこんな強く巻いちゃったんですか」

「あんま太いと持ち運びが大変なんだよ」

「スリムにしてもドアにぶつかってましたけどね」

「あれはこれじゃない」

じゃあどれですか、と言いたくなったけど、めんどくさくなりそうだったのでやめておいた。

小嶋のせいで眠気も覚めてしまい、席に戻ると仕方なくノートを開いた。