勉強がわからないとか、授業中の空腹がやばいとか。しばらくの間、そんなくだらないことを1人で話した。

芹沢くんはそれを全部 聞いてくれて、時には笑って頷いてくれた。


芹沢くんと話しているときって楽しいんだよな、と思ったときに鳴るのが、昼休み終了を告げる意地悪なチャイム。

それが鳴ってからも話せたらいいのに、と思って頭に浮かんだのは、ワイシャツのポケットにいる携帯の存在だった。

なるべく自然に胸元のポケットに指を突っ込んでみると、携帯はちゃんといてくれた。こうなれば選択肢は1つだ。

「そうだ。よかったら連絡先交換しない?」

笑顔でそう切り出せば、私が断られた場合を想定していないことを知っているように、芹沢くんは「いいよ」と言ってくれた。

「ありがとうっ」

ここ最近で最も大きな嬉しさに包まれながら携帯を取り出す。そして綾美のときと同じ操作をしていると、ふと手元に視線を感じた。

顔を上げて「なに?」と訊けば、「……桜?」と、芹沢くんは私の携帯に付いているストラップを見つめて言った。

「そうだよ、かわいいでしょ」

そっとストラップを握ると、芹沢くんは「本当に好きなんだね」と微笑んだ。