恥ずかしがる私につられるように、芹沢くんまで少し恥ずかしそうな笑みを浮かべた。あんなこと言わないでよ、初めてなんだから、と少し悲しいことを思ったとき、昼休み終了を告げるチャイムが鳴り、体温がすんと下がった。
「はあっ。楽しい時間は短いね」
「楽しい?」
「うん。芹沢くんとこうして話すの、すごい楽しいの」
なんせ芹沢くんと話すためだけにこの暑苦しい廊下にいるくらいだからねと心の中で続ける。
「俺も楽しいよ。笠原と話してんの」
「ふふっ、本当? さっきから嬉しいことばっか言ってくれるね」
なにか言ったかと問うように疑問符を浮かべて見つめてくる芹沢くんに、「行くよっ」と言って階段の方へ逃げた。
少しでいいから自覚してほしい。“大沢コンビ”の人気ぶりを。おたくらは女子だけじゃなくて男子にも人気なんだよ。そんな人に、人生初のかわいいだよ。そりゃあ嬉しいでしょうよ。
聞こえない密かな声でぶつぶつと言葉を並べ、ため息をつくと、右側から「なんか怒ってる?」と大人しい声が聞こえてきた。
「別に?」
「いや超怒ってんじゃん」
「怒ってないもん」
怒ってないもん。なんか、嬉しくて恥ずかしくておかしくなってるだけだもん。
芹沢くんは大きな音を出して階段を上る私に苦笑し、隣で静かに階段を上って3組の教室の前では今日も「じゃあ」と言ってくれた。
決して怒ってはいない私は、「またね」と返して自分の教室へ戻った。



