「今日も暑いね」

「まだしばらく暑そうだな」

「そうだね」と苦笑し、「やっぱり春が好きだなあ」とワイシャツの胸元をぱたぱたとすると、「そうだな」と芹沢くんも共感してくれた。

「芹沢くんも春好き?」

「うん」

桜も咲くし――。少し間を置いて言われたその言葉が、すごく嬉しかった。

「芹沢くん、桜好きなの?」

「好き」と芹沢くんが頷き、思わずガッツポーズをしてしまった。

「私も好きなの、桜っ。ちっちゃい頃からなんだけど、桜を見ると絶対花びら取ってやるって思っちゃうの」

静かな廊下に響く私のうるさい声に、芹沢くんは「かわいいね」と笑ってくれた。過去一度も言われたことのない言葉に顔が熱くなり、つい芹沢くんから目を逸らした。

かわいいの一言って、こんなに嬉しいんだ。

なんとか顔を冷やそうと頬に手を当てる私に、芹沢くんは「花びら追うとか、そういうの似合ってる」なんて加えて綺麗な笑顔を浮かべた。

かわいいの言葉は、言うのは慣れていても言われるのにはこんなにも慣れていないのだと自分でも驚いた。