芹沢くん暑いの苦手って言ってたし、教室にいるのかなと思いながら掲示物で賑わう壁を眺めていると、右側から静かな足音が聞こえてきた。そちらを見てみれば、芹沢くんがこちらに向かって歩いていた。
「おう、笠原じゃん」
「芹沢くん」
会えたことに喜んでいる自分がいるのを感じながら、「久しぶりだね」と続けた。
芹沢くんが隣に来て、私は前の壁に視線を移しながら訊いてみた。
「夏休み、どっか行ったりした?」
スーパースターから返ってきた、「友達ん家行ったくらい」という言葉に「そうなんだ」と返した。スターもプライベートは意外と普通なんだなと思っていると、「笠原は?」と訊かれた。
「私は……」
芹沢くんたちの中学の頃の話が聞きたくなくて友達の家に行くのをやめた、なんて言えるわけもなく、「毎日友達の家行ってた」と返した。
「そっか。読書感想文、大丈夫だった?」
苦手なんだろ?と言われ、かなりねと苦笑する。
「夏休みが終わるぎりっぎりで終わった」
なるべく薄い本にしたのにだよ?と続ければ、「ああ……なんかそんな感じ」と笑われ、「いや、ばかにしてるでしょ」と笑い返した。



