種類がわからない涙まで出てきて、堪らず胸を押した。

離れてから、はっとしたような顔をする肇。



なに、その顔………



「ごめ……」

「聞きたくない!!」


耳を塞いで、目を背けて、走った。

超特急でリビングを出て階段を駆け上がった。

自分の部屋のドアを音を立てて閉めると、ドアを背にずるずると座りこんだ。


「……なに、今の…なんなの……!?」


キス、だった。

熱くて熱くて、どうにかなってしまいそうな、キス、だった。

そっと唇に触れるとまだあの熱が残っている気がして、更に胸が締め付けられる。


なんで泣いてるんだろ、あたし。


逃げようと思えば、いつだって逃げられた。

でも逃げられなかった。

………ウソ、逃げなかった。

嫌じゃなかったんだ。

なんで…?

わかんない。全然わかんない。


傷ついたのは、キスの後の肇の表情だった。

間違えた、みたいな。

やっちゃった、みたいな。


あたしとのキスが、間違いだったような顔するから。

流れだったんだ…って、悲しくなった。

そこに気持ちは無くて、ただ、熱に浮かされて弱った心がそうさせたんだって。



―――――……あぁ、あたし、気づいちゃった。


ねぇ、肇。

あたし、もう、恋に恋するガキじゃないよ…?



またひと粒、涙がこぼれた。

最初からわかっていたこと。肇は、あたしのことを女の子としては見ていない。

幼なじみ以上になりたいなんて思ってしまっているのは、あたしだけ。完全な片想い。

思えば、小さなサインは前から出ていて。

好きな人が自分を好きなんて、奇跡なんだ……

少女マンガじゃ、知り得なかったこと。

唇を噛みしめて泣いた。


生まれて初めての本当の恋は、涙の味がした。


「恋は苦くて甘いなんて言ったの、どこのどいつなんだろ……」


しょっぱくてしょっぱくて、仕方ないじゃん。


その日は感情任せに泣き続けて、気がつけば、泣き疲れて寝ていた。