「…俺たち人狼は、本来人を喰らう種族だ」
困惑によりしん、と静まり返っていた広場にその声は響く。
男の身から痛々しい傷は既に消え失せていた。
「けれど、それは『必須』じゃない。食糧の選択肢の一つなだけ。俺たちは、肉食だから肉の選択肢が人間より一つ多いということ。兎や鹿とかと違って人は最期の瞬間何を思っているかよく分かる。罵詈雑言を浴びせられる。そんな状態で食事なんてしたくない」
「我々を喰らわぬ理由が気分を害するから、だと?!そんな、お前らの気まぐれで我々は死ぬと?
バカにしているのか?!」
いち早く回復した村長は顔を真っ赤にして叫んだ。
同時に、「そうだ、そうだ!」と同意の声があちこちから聞こえる。
「バカにしている、じゃない。事実を言っているまでだ。人間は俺たちにとって愛すべき隣人であると同時に食糧なんだ」
「貴様…人情のかけらもないのかっ!」
「俺は!」
声を一層張り上げて、男は叫ぶ。
「こいつのことが好きなんだっ!」
背後の女を指差してそう言う。そう言う顔は真っ赤になっていた。
急に告白された女はひどく驚いた表情をしている。
「こいつが、好きだから。人間に認めてほしいから!偽りなく正直に話しているんだ!
俺たちは『約束』を決して忘れはしない、だから人間は好きだ。
そんな感情の話じゃなくて人狼の本能と性質について、話しているんだ」
分かって、くれよ。そう最後には先ほどまでの威勢が嘘のように小さく呟いた。



村の人狼は代々人と交わってきたが為に完全に狼に変身することはなく満月の夜は獣耳と尻尾に鋭い牙、さらには人を襲う獰猛性が残った。けれど、その獰猛性は理性で抑えられる程度であり脅威ではなかった。
そのうち、人狼の血筋であっても人狼の因子を持たない者も現れた。それは大多数となり、先祖返り的に人狼となる者も大変力が弱かった。




しかし、それから100年後のこと。その村では事件が起こった。
いつもと変わらないような朝、村の青年が獣の爪痕が多く残った死体姿で発見された。

青年の死体を見て、村人達は口々に言い始めた。

人狼はやはり悪だったのだ。人狼として覚醒しているものを、殺せ

人々は人狼を駆逐する対象として見なし、村人同士の殺し合いに始まりを告げることになる。

誰かが呟いた。
「人狼ゲームの始まりだ」