人狼…それは人ならざる存在。昼は人の姿をしているが、満月になると恐ろしい狼にその姿を変える。

ある村には人間と、それに混じって正体を隠して暮らす「人狼」が暮らしていた。

村はその一族を武力によって排除しようと躍起になっていたが人狼は力が強く、それはいつまでも叶わなかった。

村から孤立していっても一族は頑なに村から離れなかった。外に出れば石を投げつけられ、罵詈雑言を浴びさせられる。食料の物々交換などしてくれるはずもなく、森で採集や狩りをして生きていた。

人狼とは、本来人肉を喰らう種族である。採集や狩りなんて面倒なことをせずとも自分たちに害をもたらし続けている人間を襲えばいいのだ。
けれど、決行することはなかった。
それは初代村長と交わした『約束』を守り続けているからだ。
人間はもうとうに忘れ去ったその『約束』。なぜ人狼は守り続けているのか。

人狼とは力が強く、残酷で賢いと人間は言う。それは確かに真実である。けれど結束力が高く、一度「仲間」と認めた者は決して裏切らず、約束を破ることを恐れ、何よりも愛を重視する。そんな面があることを人間は知らない。人狼は、言わない。いや、諦めたと言うべきか。声を上げてもそれを上回る罵声でかき消される。

人狼の悲鳴は届かない。