少しの間そうやって抱き合ったあと、出勤前の彼女のために、絶賛勉強中の料理を作ることにした。
計量スプーンできっちり量り、何度も何度も味見して、少々時間はかかったけれど、レシピ通りに作った肉じゃが。
料理上手な彼女な彼女の口に合うだとうかと、心配しながら運ぶ、と。
「あれ?」
彼女はさっき抱き合って離れた体勢――お腹までこたつに入って両腕を投げ出した状態のまま、眠ってしまっていた。
とても幸せそうな顔で、健やかな寝息を立てて。
作った肉じゃがが冷めないうちに起こそうかとも思ったけれど、今日は早く来ていたおかげで、出勤時間から逆算してもまだまだ余裕がある。
肉じゃがは温め直せばいい。むしろ時間を置いたほうが、味が染みて良いかもしれない。
とりあえず彼女の隣に腰を下ろし、顔を覗き込んでみる。
くまがひどい。肌荒れも。額にはにきびもある。彼女のにきびなんて初めて見た。
労わるように頬を撫でると、くすぐったかったのか「ふへへ」と。今まで聞いたことがないような笑い声を出すから、つられて僕も笑い出しそうになった。
彼女を起こさないよう、必死に笑いを堪え、口に腕を押しつける。
どうにか笑いを治めて、ふうっと息を吐いた。
こんなに心地の良いため息は、生まれて初めてだった。
どうか、こんなに大変な想いをして迎える旅行が、良いものになりますように。
どうか、少しの間でも、彼女が良い休息をとれますように。
そう願いながら、寝転んだ。
(了)



