「環奈、夕美っ」
「え、ちょっと泪!?」
ふたりだっ、なんかホッとして……。
ふらついて、前に倒れそうになったあたしを、環奈が慌てて抱きとめた。
「ぎゃーっ、泪が倒れたっ、ちょっと何事!?」
「環奈、保健室連れてきましょ」
今保健室に戻ったら……八雲に会っちゃう。
出来れば、今は八雲と顔合わせたくないな。
だけど、そんな願いも虚しく……。
「泪、バカ野郎、そんな体で全力疾走する奴があるか!」
八雲に、追いつかれてしまった……。
あんな風に、逃げてきちゃったのに、駆け寄ってくると、あたしの体を支えてくれてる。
その優しさが、今は辛いよ……。
一度知ってしまうと、人は欲張りだから。
もっともっとって……八雲との幸せな未来を想像してしまう。
そしてその度に気づくんだ。
そんなの、叶いっこない幻想でしかないんだって。
「ちょっと、八雲ぉ、泪大丈夫なの!?」
「俺は泪を保健室運ぶから、高橋先生に伝えといて」
「わ、分かった!」
また、体が浮き上がる感覚。
八雲に抱き抱えられて、あたしはまた襲ってくる眠気に抗えず、瞳を閉じてしまう。
結局この日は、まともに起きているのは無理そうだったので、透お兄ちゃんに迎えに来てもらい、学校を早退することになった。


