《side八雲》


目の前で、泣きながら去っていった泪の背中を見送る。

胸が張り裂けそうで、どうしたら良かったんだって立ち尽くした。


『さよなら、八雲』


泪から告げられた別れの言葉が耳から離れない。

その言葉を今も理解できずに、認められずにいる。



「あーあ、泣いちゃったね彼女さん」

「…………」

「あぁ、もう彼女じゃなくなっちゃったんだっけ」

「なんで、あんな誤解させるような言い方したんだよ」


確かに、昔の俺は、適当な付き合いをしてきた。

でも、今も橋本と続いてるとか……ありえねーし。

泪と出会ってからはアイツ一筋だ。

これだけは嘘じゃねーのに、泪の泣きそうな顔見た瞬間に、頭真っ白になって……。

言葉が、出なくなったんだ。



「だって、八雲のこと欲しかったんだもん」


「ふざけんな、俺は泪しか眼中にねーんだけど」



女の子相手にここまで怒りが込み上げたのは、泪が湯をかけられてヤケドした時以来だ。


アイツの事になると、男と女も関係ない。


「泪を傷つけるなら許さねーぞ」

「きゃー、怖いこと」


ニコニコしやがって……。

この後、どうやって泪に弁解すればいいんだよ。