「橋本、適当な事ばっか言ってんなよ」
「えー、本当のことでしょ。ねぇ、彼女さんはどっちを信じる?」
橋本さんが挑発するようにあたしに話題を振った。
八雲の言葉を信じてる。
そう言いたいのに、なのにっ。
「もう、聞きたくないよ……っ」
浮気してたのかな……。
それとも、あたしの方が、浮気相手なのかな。
考えれば考えるほど、嫌な想像しか頭に浮かばない。
「八雲のこと見損なったし!ほら行こ、泪!」
環奈に手を取られて、踵を返した。
今ほど、この手を力強いと思ったことは無い。
ひとりでは、きっと立ち尽くしたまま動けなかっただろうから。
「泪、違うから!!」
「さよなら、八雲」
やっぱり、隠し事の多いあたしより普通の子がいいんだね。
それなら、もっと早くアタシを振ってくれてら良かったのに。
それなら、こんなに痛くなるほど、深い傷を負うことも無かったのに。
「泪、行くな!!」
「だーめ、八雲はあたしとの話がまだ残ってるでしょ」
叫ぶ八雲と甘い声を出す橋本さんの声が背中越しに聞こえた。
ーーズキンッ。
胸が痛んでも振り返らずに、環奈に手を引かれるまま歩き続けた。


