「ふふっ……八雲ってば、本当に……」




不覚にも、泣きそうになった。

バカで、どこまでも優しい人。

……大好き、八雲のことが。




「あーあ〜、蝉しぐれ〜」




こぶしを聞かせて歌ってる八雲を見上げながら、あたしは嬉しくてつい笑う。


ねぇ八雲、気づいてますか?

あたしが今笑ってるのはね、八雲の演歌がやけに上手いからとか、ツボに入ったとか……そういうんじゃないの。


八雲の想いに心が満たされて、幸せだから笑ってるんだよ。



歌っていた八雲が、ふとあたしを見る。

「あ」「り」「が」「と」「う」、そう、口パクで伝えた。


すると、八雲は一瞬目を見開いて、イタズラがバレたみたいな顔で笑い返してくれるのだった。