「泪、こいつ無害そうな顔して、いちばん腹黒いからな」


「そんな、まさか王子様に限って……」



紫藤くんを見つめれば、花のように綺麗な笑顔が返ってくる。

ほらね、 こんな素敵な笑顔なのに。

腹黒いわけないじゃん、八雲ってば嘘ばっかり。



「王子様ねぇ……泪、浮気すんなよ?」


「なっ、しないよバカ!!」



ポカッと八雲の胸を叩けば、その手を優しくとられる。

強引なのに優しく感じるんだから、不思議だよね。


この人は、あたしを傷つけたりしない。

いつでも、真綿で包み込むように優しく、時には強くあたしを守ってくれる人。




「アンタを好きな限り、不安だっていう気持ち……こーいう事か。ん、身をもって知った」


「え??」


それって、さっきあたしが言った言葉……。

『不安は、八雲を好きな限り消えないんだもん……』

八雲のことを好きだから、ちょっとした瞬間に不安になる。



ほかの子を好きになったらどうしよう。

嫌われたらどうしようって。



「泪が俺以外のモノになるなんて、ぜってー嫌だわ」

「なっ……」


そんな、ストレートに……。

ドキドキして、息苦しくって……とにかく好きだーって、叫びたくなる衝動に駆られる。



「ま、泪が浮気しなんかしねーのは分かってるけどな。だって泪、俺のことしか見てないもんな?」

「自意識過剰!!」

「はいはい……良い子だから、俺のことしか見えないって、言ってみろよ」



ニヤニヤしてる八雲に、あたしはぶうたれてみる。


余裕たっぷりの八雲が、たまに憎らしい。


でもあたしは、恋愛なんて八雲が初めてだから……。

いつだって、ドキドキして、自分が自分じゃないみたいになるんだ。