「…僕は大丈夫ですから。
松下くんのところへ行ってあげてください」





背後にいたのは幸大くんだった。





「え、何で…いいの?」





私も、隣にいた宮野さんも同じ表情をしていたと思う。


落ち着いた声と笑顔でそう言ってくれるものだから拍子抜けをしてしまう。



私の頭の中に浮かんだのは、疑念。


彼女が、他の男子のところに行こうとしてるんだよ?

これからデートなのに…何で許してくれるの?




でも、ちらりと幸大くんの方を見ると下唇を噛み締めているようだった。

幸大くんだって、嬉嬉としてこんなことを言ってるわけじゃない。





「僕は、璃乃ちゃんの中に松下くんがいても受け止めるって決めました。
…でも、それはやっぱりしんどい」





だから、と続けて





「松下くんと僕と、選んでください。
松下くんと会った上で決断してください。誰かのためじゃなくて自分の気持ちに素直になって」





と、言い切った。



私は幸大くんに甘えて、その背中に隠してもらっていただけだ。


幸大くんが、幸大くんがって言い訳して月星から自分の気持ちから逃げていた。


それを幸大くんは知りながら一緒にいてくれたの?





「…ごめん、ありがとう」





私は深く頭を下げてからその場を後にした。