インターホンが鳴って由紀ちゃんを家にいれる。





「お邪魔します」





キョロキョロしながらついてくるこの子をキッチンまで連れて行く。





「私、今日シフォンケーキを作ろうと思ってて…!」

「いいな、俺も何か手伝うよ」





得意だと言っていた通り手際がいい。





「今日までいっぱい練習したんです」





そう言う彼女の指には絆創膏一つないから失敗もそれほどしてないんだろう。





「あとは焼くだけですね」





オーブンを35分にセットして、あとは待つだけ。





「リビングでテレビでも見て待ってようか」

「はい!」





隣に座る由紀ちゃんは緊張しているのか心ここに在らずで、やたら出したお茶を口に含んでいた。





「悪い、お茶持ってくるな」





そう言って立ち上がった時





「あの…!」





不意に腕を引っ張られてバランスを崩した。

不運なことに彼女に覆いかぶさるような体勢になった。


自分の真下にいるこの子の顔が、あの時の璃乃に重なる。



目からいっぱいに零した涙と、あの言葉を。





「わっ悪い…
今日はもう帰ってくれねえか?」

「えっ…?
…はい」





そう言う俺に心底驚いたようだった。


昔ならこのまま帰すなんてこと有り得なかったけど、今は…そんな気分じゃなかった。



この家に一人になったあと、ただケーキの完成を告げるオーブンの音だけが響いた。