「松下、何か飲み物買いに行かね?」
「ああ。怜央も行くか?」
「そうだな」
昼休みになってすぐに坂本が声をかけてくる。
ちょうど炭酸が飲みたかった気分だし丁度いい。
「なあ、あの子可愛くね?」
「本当だ!可愛いな」
前で渡辺と坂本が周りの女子を見定めている。
大抵、こいつらが俺達とつるむ理由はこれだ。
俺と怜央の周りに集まってくる女子目当て。
単純明快。結局のところ俺達はちゃんとした目的ではない理由で付き合える友達などいないのだ。
飲み物を買った帰り、渡辺は思い出したかのように喋り出した。
「松下ー、木村のこと家に誘ったんだって?」
「…ああ、まあ」
視線を渡辺から前に戻すと、璃乃もこっちへ向かっているようだった。
璃乃の顔を視界には入れないようにするものの、存在の意識はしてしまう。
見てるな。俺の口元…
痛みはもうとっくに無くなっていたが、痣は少し残っていた。
「流石だわ、可愛いもんなー」
俺は一度ぎゅっと目をつぶってから
「ははっ、まあなー?
頭も撫でると癖毛がふわふわして気持ちいいのよー」
璃乃はあの委員長といる方が幸せなんだ。俺とはいない方がいい。
ごめん、璃乃…
名前も知らない、撫でたこともないのにこんな嘘に使って…つくづく最悪な男だと思う。
2人の距離がどんどん近付いて鼓動が頭に響く。
…璃乃。
ぱっと目が合う。
「目からも俺のこと好きって伝わってくんのがすげえ可愛くてさ」
胸が痛い。張り裂けそうなほど胸が痛い。
肩が当たりそうな近さで璃乃の痛みも感じる。
前に進むための痛みだから、きっとそうだから。今だけだから。
璃乃が俺を忘れられるように。
ただそれだけを信じて。