「…璃乃?
次、移動教室だけど…大丈夫?」

「あ、うん。大丈夫だよ、ありがと」





なんて言葉を吐くものの心臓がバクバクしてる。

なぜなら移動の際、月星の教室を通らなければならないから。

彼が廊下にいることはほぼ無いし、顔も合わせないだろうけど…存在は感じてしまうから、それが辛い。





「なあ、松下。
今日はあの子のとこ行かなくていいのかぁー?」

「あんなに落とす落とすって意気込んでたのに。俺負けるじゃねーかよー」

「おー坂本、1週間食堂奢れよなー」





やっぱり。


月星の声はしないけど、いる。感じる。


何、負けるって。賭け?





「ご、ごめん…
先行く!」

「ちょっと待って、璃乃!!」





なんだなんだなんだなんだ。

分かってたことじゃないか。


相手は松下月星。この学校で1番のイケメンでプリンス。

彼に憧れる女の子は数多くいて、私なんかが触れちゃいけない存在だった。

知ってた。分かってた。

相手は本気じゃないって昨日も自分で思ってた。


でも…





「実際にそういうのを目の当たりにすると…きついなぁ…」





壁に寄りかかってずるずると腰を落とす。

教科書と筆箱を抱き抱えて縮まり込む。





「…あ、あの…大丈夫ですか…?」