ライブが終わった。
興奮した。まだ…あの光景が頭から離れない。
最高だった。言い表す言葉がないほどに最高だった。
それは璃乃も同じなようで俺はそんな彼女を残して1人トイレに行った。
ライブ後だからか混んでいて、やっとのことで出てくると結構時間が経っていた。
「良いじゃん、行こーよ!」
ナンパか。この辺も人通りが少なくなってるし…早く璃乃を探さないと。
「い、嫌!やめてください!」
「…は?!」
絡まれてるのは璃乃か?!
あんな女1人に男3人かよ、卑怯な!!
必死に走って璃乃の腕から男の腕を離して自分の方へ引き寄せる。
「松下月星…」
正直フルネームで呼ばれたのは少しショックだった。
まだ璃乃の中に入りきれてないのか…
そんなショックを悟られないよう俺はまた馬鹿みたいな冗談しか言えない。
「はあ?彼氏登場とかマジ白けるんだよ!」
リーダーらしきやつが殴りかかってくる。
頭では分かってる、分かってるのに体が動かなかった。
「…いってえな…」
鈍く重い衝撃が頬に走る。
手で拭うと血も出て璃乃も泣きそうになっていた。
「る、月星!!」
「ざまあねえな。
彼女に情けない姿見せちゃってなあ?」
けらけらと笑うこいつをとにかく早く何とかしたい。
璃乃を怖がらせやがって。
それにこれぐらいの程度のやつに殴られて璃乃にこんな顔させて。
本当ふざけんな、俺もお前も。
「…誰が情けない姿だよ」
立ち上がって思い切り殴る。逃げる隙なんて与えない。
取り巻きの方を見ると血相を変えて逃げていく。
久しぶりに本気で殴って右手がずきずきと痛い。
「大丈夫?!」
そんな俺に璃乃が近寄ってくる。
俺を月星、と呼んだことを嬉しく思いながら自分の胸の方に寄せる。
俺のこんな殴られた傷なんかより璃乃の方がよっぽど怖かったはずだから。
頭を撫でると鼻をすするような声と肩から胸にかけて服が濡れる感じがした。
「…!」
無意識だろう璃乃の手が背中に回った。
弱々しい力でぎゅっと掴む。
やばい…やばいやばいやばい。
ドキドキして立っているので精一杯。
何だこれ何だこれ。
心臓の音、聞こえてないか?!

