「悪い、ちょっとトイレ行ってきていいか?」

「あ、はい。
じゃあ外で待ってますね」





外で待っていると会場からは満足そうな人達がぞろぞろと出てくる。


中には泣いている人も…わかる。わかるよ。感動だよね最高だったもんね…!

今日もっていうか今日は、一段と素晴らしかったです。生で歌を聴けて顔を見れて同じ場所にいて…同じ熱を感じた、それが本当に幸せで素晴らしかったです。


語っても語っても語りきれない。
高揚感が凄い。


だから、いつもより油断していたのかもしれない。





「ねえねえ、君可愛いね?
誰か待ってるの?」





人通りが少なくなってきたとき、チャラそうな男3人に声をかけられた。





「いや、私あの…!」

「俺ら今暇でさぁー?一緒に遊ぼうよ」





腕を掴まれそうになって慌てて抵抗する。





「良いじゃん、行こーよ!」





するともう1人の男に腕を掴まれ引っ張られる。





「い、嫌!やめてください!」





どれだけ力を入れてもびくともしない。


怖い怖い怖い怖い…

誰か助けて…





「おい、何してんの」





男に掴まれた腕をほどいてその人の胸のところに抱き寄せられる。


もちろん、助けてくれたのは





「松下月星…」

「おいおい、こんなときくらい月星♡って甘えた声で呼んでくれていいんだぜ?」





こいつは冗談で言ってるはずなのに、胸がドキドキして収まらない。





「はあ?彼氏登場とかマジ白けるんだよ!」





そう言った途端、鈍い音がした。


私の目の前にいた松下月星の口が切れて血が滲んでる。





「…いってえな…」





その血を手で拭う。





「る、月星!!」

「ざまあねえな。
彼女に情けない姿見せちゃってなあ?」

「…誰が情けない姿だよ」





相手の男がぶっ飛んだ。

いや、ぶっ飛ばした。


そして他の2人は血相を変えて逃げていく。





「大丈夫?!」





慌てて側に駆け寄ってハンカチで血を押さえようとした。





「俺のこと月星って呼んだな」





そんな私の手を優しく持ってにっと笑った。





「璃乃は大丈夫だったか?
怖かったよな、悪い。俺が遅かったばかりに」





そう言って頭をポンポンと撫でてくれる。


張りつめた緊張が解けたのか目頭がどんどん熱くなって、月星の顔もぼやけていく。


結局私の手にあったハンカチは月星によって私の涙を拭うことに使われた。



月星は私を胸の方に寄せ誰にも泣き顔を見られないように、そしてその間もずっと頭を撫で続けていてくれた。


体全体で感じる体温と頭に置かれた手の重み。それはひどく私を安心させた。