完璧執事の甘い罠



「怖いに決まってる・・・。あんなこと初めてだった」



あの世界にだって、あれくらいの事ならどこかでは起きていたことだろう。
でも、私自身がそれに出くわしたことなんて一度もなくて。


光るナイフが、その先が自分に向けられるなんて。


そして、それで誰かが傷つけられるなんて・・・。





「私のせいで、ジルが・・・」

「私がいくら怪我をしようが、もし命を奪われることがあろうが・・・。私ごときに心を痛める必要はございませんよ」

「え・・・」

「騎士はもちろん、我々執事や使用人は、王族の方をお守りするために存在しています」




ネクタイをキュッと締め、いつものきっちりとしたジルの姿に戻る。
そして私を真っ直ぐに見据えて話し続ける。



「言わば駒、言わば盾のようなもの。ひな様が、いちいち心を動かす必要はないのです」

「なに、それ・・・」

「そのことを、しっかり胸に止めておいてください」




なにを言っているのか、理解できない。