見ると、みすぼらしい格好の男が血走った目で荷物を抱えこちらの方へ走ってくるのが見えた。



「どけどけー!どかねぇと殺してやる!」




男は懐からナイフを取り出し、私の方へと向かってきた。
私はちょうど街の真ん中に佇んでいた。
身動きが取れなくて立ちすくむ。


ナイフの先がキラリと光る。
そんなところに目が行くけれど、足が動かない・・・。





「どけぇ!」

「ひな様!!」




突然、視界が塞がり温もりが私を包み込む。
ふわっと香る、優しい香りに包まれたと思った時には、自分が誰かに抱きしめられているのだとようやく気付いた。




「ひな様!ご無事で!?」




少し焦ったような声が降ってきて、私は戸惑いながらコクリと頷いた。
いったい、何が起きたんだろう。
気づけば、男は他の誰かに抑えつけられていて。

ジルが、そう、ジルが庇ってくれ・・・。



「ジ、ジル、血!」




混乱から覚めて気が付くと、ジルの右腕から血がしたたり落ちていた。
真っ赤な鮮血が私の着ているワンピースにまで流れ落ち赤く染めていく。




「すみません、ひな様の衣装を汚してしまいましたね」

「ちがっ、違うでしょ!そうじゃなくて、ジルが怪我してるのよ!?」