走りにくいスリッパで出せる限界の速さで階段を降りる。


今はエレベーターを待っていられなかった。


とにかく足を止めたくなかった。


何処かに消えてしまいたかった。


がむしゃらに走り続けて、ふと気づいたら昼間遊んだ海にいた。


ホテルは海のすぐ近くだったので無意識に来てしまっていたようだ。


だけど丁度いい、と思い、私はスリッパを脱ぎ捨て砂浜に腰を下ろす。


あーあ、まさか智也先輩に彼女がいると思ってなかった。


私と家で2人っきりでも何も無かったのは彼女がいたから?


でもそれならそうと言ってくれればいいのにね。



「そしたら……っ、好きにならずに済んだのになぁ……」



涙を流したのは何時ぶりだろう。


楽観的な私は辛いことがあっても明るい方に捉えて絶対泣かなかったのに。


こんな辛い思いするなら恋なんてしなければ良かった。


従兄弟のお父さんが好きだと思い込んでいれば良かった。


恋をしたら楽しいって誰が言ったの?