わたし、遊ばれている。
完全にこの男に遊ばれている……!

「慧斗は、彼女いないの?」

「いないよ」

「あ。でもいたことはあるよね。去年とか、中学のときとか」

わたしなりの報復として、突っ込んだことを聞いてみた。
別れた彼女の話を聞きたいのは、わたしの好奇心からだった。

どこからか、魚を焼く香りがした。日が暮れ始めている。

沈黙が降ってきて、そんなに答えたくないことだったのか、と後悔が襲ってきた。

帰れない道を歩み始めてしまったような感覚に足を取られながら、恐る恐る慧斗を見上げる。

慧斗の手がこちらに伸びる。