「やっぱりお金払う」

鞄に入れた財布を再度出そうとする。

「要らないって」

「出してもらう理由がないし」

お金を出して、その手に乗せる。
慧斗はそれを握って、スラックスのポケットに入れた。

それを見てから、帰路を辿った。

わたしの家の前で別れる。じゃあね、と去っていく背中に聞きたかったことを思い出した。

「そういえば、仔猫元気?」

その言葉に振り向いて、笑顔を見せる。

「超元気」

絆創膏の貼った手の甲を見せる。わたしはやっとその怪我の原因を知った。

「もうちょい慣れたら見に来て」

あまり自然に言うものだから、

「うん」

と返事をしてしまった。