「守尾」
彼の前の席の船川の背中がよく見えた。振り向いてわたしを呼んでいる。
「うん?」
「日直だろ、挨拶」
小さい声で言われる。あ、このしんとしている空気は挨拶を待っていたのだ。顔を上げて起立をしてから挨拶をする。
どこからか笑う声がした。夏菜子が笑ってこちらを見ている。
前にない背中を思いながら、溜息を吐く。
担任の先生が「望月が欠席の理由、誰か聞いてるか?」と問うたけれど、誰も何も言わなかった。
どうしたのだろう。
「望月、やっと来たのかよ!」
教室中の視線を一切に攫う。わたしもその中の一人だった。



