知恵の樹の実を食べる前のアダムとイヴじゃあるまいし、幼稚園児のわたしにだって少々の善悪や恥ずかしいという気持ちは備わっていた。 「み、みいちゃ……」 「ばか!」 「ごめ、ごめん……」 「けいとくん、きらい!」 一丁前に相手を罵る言葉を使って、わたしは彼に放った。 彼は更に泣きそうな顔になっている。 わたしはこの時気付かなかった。 擦りむいた膝の傷で泣いていたはずなのに、その傷は完全に塞がっていた。 ふと空を見上げると、桜の樹の枝が自分に覆いかぶさってきている。