友達と喧嘩した時、お母さんがいなくて悲しくて悲しくて消えてしまうかと思えるほど、小さくうずくまっている小さな女の子。

 それが杏だった。

 そういえばあの時に…。

 そう思っていると空まで伸びそうな大木から一人の男の人が降りてきた。

「僕。エルって言うんだ。これ食べると元気になるよ。」

 そう言うと小さな杏に何かを差し出した。エルは杏が知っているままの大人のエルだった。
 天使が永遠の命ということは永遠に歳も変わらないということなのかもしれない。

「本当?エルって変な名前。トモって呼んでいい?」

 小さな杏はよく分からないことを言った。その提案にエルも戸惑っているようだ。

「う、うん。いいけど…。トモって…。」

「昔飼ってた犬の名前!」

 やだ…。最初の罪は私を元気づけるため…。
 しかもトモって私が最初に呼んだんだ。

「ほら。おいしいよ。」

 シャリッと噛んで反対側を向けて渡す。
 その姿にニコッと笑うと杏も受け取ってかじった。

「ねぇ。また会いに来ていいかな?」

 エルが名残惜しそうに杏を見ている。杏が食べている姿を嬉しそうに眺めていたが、帰らないといけない時間なのだろう。

「そうね。私、大人になったらいっぱいやりたいことあるの。
 さんじゅっさいっていうのになったら会いに来て。」

「三十歳?遅くない?」

 残念そうな声を出すエルに小さな杏は首を振る。

「ううん。遅くない。
 それまでにすっごく可愛くなっておくから。」

 力強くピースサインを出す自分にどこからそんな自信が…と昔のことながらに恥ずかしくなった。