「僕は昔、悪いことをしているので…。」

 そう言えば前にそんなことを言っていた。
 その時は天使なんてことを信じていなかったから聞き流していたけれど…。

「悪いことって何をしたの?」

「天界の食べ物を人間にあげたんです。」

「え?それだけ?」

「天界の食べ物を人間にあげるのは大罰…。」

 うつむくエルにすごく悪いことなのだということが伝わる。
 結菜が言っていた罪を犯せば永遠の命が削られるという言葉を思い出す。

「知っててそれをしたの?」

「はい。だって天界の食べ物を食べると元気になれるから。」

 ニコッとするエルは自分がしたことに後悔はないようだった。

「それにしても…どうして今さらエルが消えないといけないの?
 今がその削られた命の最後ってこと?」

 エルは首を振って、そうじゃないと告げる。

「もっといけない罪を犯したから。」

「何?なんなの?」

 私の運命の人を見つけたら消えるわけじゃなかったのか…そんなことを今さら理解しても、どんどん薄く消えてしまいそうなエルに杏は焦る。

 それなのにエルは微笑むだけだ。

「杏さん。必ず幸せになってください。
 僕の後は先輩の天使にお願いしてあります。大丈夫ですから。」

 僕のあとって…。

「そんな。エルがいなくなっちゃうなんて…。エル!」

 杏。愛してる。

 そんな声が聞こえた気がした。