また十時になるとインターホンが鳴る。

 まさかね。と思いながらもそわそわする自分に苦笑した。
 やっぱりドアの前にはエルが立っていた。

「すみません。遅くに…。でも杏さんと一緒じゃないと眠れなくて…。」

 可愛い目を潤ませて杏を見た。

「全くもう…。」と言いながらも部屋に入れた。

 部屋に行く途中に杏はさっきの仕返しとばかりに口を開く。

「エルって本当はしっかりしてるんでしょ?私がいないと眠れないなんてそんなこと…。」

 圭佑や春人たちの前での態度や、結菜の時の一件に見せた顔。

 色々なところで垣間見る姿はどれも甘えん坊なエルとはかけ離れていた。

「そ、そんなことないですよ〜。一緒に寝てくれないと寂しいです。」

 可愛い声で杏の服を後ろからつまむ。

 エルこそが小悪魔かもしれない…そんなことさえ思った。

「猫かぶってるんでしょ。」

 意地悪く言うとエルがつかんだ手を振り払う。

 するとエルが後ろから杏を抱きしめた。そして耳元でささやく。

「かぶっている猫を脱ぎ捨てて中からオオカミが出てきたらどうします?」

 ドキッとして真っ赤になる杏はエルから逃れるように軽く回されただけの腕を振り払うとよろめいてへたり込む。

「ハハッ。本当に純情ですね。杏さん可愛いです。」

 座り込んでしまった杏に手を差し出して笑う。完全に形成逆転してしまっていた。

「もう放っておいて。」

 差し出された手をパチンッとたたいて拒否する。

「いいですよ。こうするまでです。」

 ふわっと体が浮いたと思ったらエルに抱きかかえられて運ばれる。

 なんでこうエルは易々とお姫様抱っこをするんだろう。普通は女の子の憧れなのに、今はちっとも嬉しくない。

「ちょっと降ろしてよ!」

 ジタバタする杏をそっと降ろしたところはベッドの上だった。

「猫の中にオオカミ」の言葉にドギマギしていると、そんな杏を置き去りにエルは布団に入って背中をむける。

「ほら。杏さん。背中くっつけてくれないと眠れません。」

 自分の背中をここ!ここ!とたたくエルにどこがオオカミよ…と呆れながら布団に入ると背中をくっつけた。