先にお風呂から出たエルは行儀よくパジャマを着ていた。

 そういえばパンツだけで部屋を歩いたりしないエルに少しは気を遣ってくれていたんだと気づく。

「杏さんも入ってきてください。でも長いと中で溺れてるかと心配になって助けにいくかもしれませんから。」

 にっこり笑ったエルに、この子ならやりそうだわ。と、ゆったりとお風呂に入らずに超特急で出ることになった。

 そんな杏に「ゆっくり浸かってこればいいのに…。」とクスクスと笑った。

「ほら杏さんこっちきて。」

 エルに呼ばれて気は進まないが、近くに行く。すると自分のあぐらの膝をポンポンとたたいた。

「ほら。座って。」

 いやいやいや…。無言で葛藤する杏に「他のことはなんでも。でしょ?」とニコニコする。

 仕方なくストンと膝には乗らずに離れて前に座る。
 そんなの無駄だって分かってるけど…。

 案の定、エルは手を伸ばして杏を軽々と膝に乗せた。

 こんなのおかしい…。そう思っても言えばどうせ「他なら何でも」と言ったと言われるだけだ。
 それか「今からでも一緒にお風呂に入りますか?」と言われてしまう。

 ぐっと黙って固まっていると、エルの手が頭に触れた。そして暖かい風とブオーッという音が頭に降ってきた。

「髪の毛、乾かしあっこしましょうね。」

 ドライヤーの音にかき消されてしまえばいいその提案は、ちゃんと杏に届くように耳元でささやかれた。

 もちろん杏は耳を押さえて赤面することになった。