「あぁ。」



俺が今泉さんに短く応えると同時に、突然がしっと後ろから肩を組まれた。

同じく物理クラスの荻原だ。



「酒井、リコちゃん泣かせただろー。」

「え?」

「さっきエントランスのとこでうちの高校の女の子達が集まってたから何かと思って聞いてたらさー。

リコちゃん、酒井にふられたって泣いてたぞ。」



「えっ!?」



(?)



ここで「えっ!?」と声を上げたのは今泉さんだった。



俺と荻原が同時に彼女の方に視線を向けると、彼女ははっとした表情をして、

「あ…ご、ごめんね…」

と俯いた。



「別に、泣かせたつもりはないよ。」

俺は荻原に向き直り、話を戻す。



「リコちゃん、なかなかチャーミングだろ?酒井に合いそうだと思うんだけどなー。」



(勘弁してよ。)



荻原に「興味ない。」とはっきり言うのは簡単だ。

が、リコちゃん、というらしい件の女の子は荻原の知人のようなので、俺の冷淡な一言が彼女の耳に入る可能性もある。

それは無駄に彼女を傷付けるだけで、俺の本意ではない。