テーブルの向こうの彼と目が合った。

「今までありがとうございました。でもこれから先も変な気とか遣わないで、普通にして下さいね」

 そう口にすると、別れを切り出したのは自分の方なのに彼が傷ついた様な顔をした。
 私があっさりと了承したせいか、口調が元の敬語に戻っていたせいか、それとも悲しむ素振りさえ見せなかったせいか。
 結局彼は伝票だけ掴んで、八割方残ったアイスコーヒーをそのまま置いてカフェを出て行った。

 この後すぐ彼は内定をもらって、その後の残り少ない学生生活をバイトと遊ぶ事に注力したいという理由で卒業を待たずにサークルを辞めた。なので私が学生生活を送った四年間はもちろん、大学を卒業してからのOB・OG会でも一度も遭遇した事はない。そのせいで新入生に手を出す時は慎重に、という教訓の中の例の一つとして『四年になって新入生に速攻で手を付け、三ヶ月足らずで別れて気まずくなってやめた人』という残念なエピソードだけが残っている。恋愛関係がこじれて去る人は毎年一定数いるし双方が辞めてしまう事も少なくないので、これは私の神経が図太いというネタの一つでもあるけれど。

「ねー、フライングドラゴンもっかい乗ろうよ!」

 そう言って私が後ろからまっちゃんとさとみんの袖を引っ張ると、二人は揃ってげっそりした様な顔をした。

「三回乗ったらもう充分でしょー?」

「お前は俺らを殺す気か」

「えー、だって今日は私の為の集まりなんでしょ?何でもリクエスト受け付けるって言ってたじゃん」