ため息をつきながら頷くさとみん。いやいや枯れてるって決めつけるのもね?
 それに別に私はそこまで深刻に悩んでる訳じゃない。だって入籍してまだ二週間だし。何度も言うけど本気で迫られたら笑っちゃいそうだし。
 こういうのは同じ同期でもまっちゃんと仲良くしてる男性陣に聞いた方がリアルで建設的な意見がもらえるのかもしれないけれど、下ネタ自体は平気な私でも相手が仲間内なだけにさすがに生々し過ぎてそんな話出来ない。さとみんだからこそ言える話題だ。背が高くて大人びた美人であるさとみんとチビで童顔の私は、凸凹コンビと呼ばれながらも大学入学直後に意気投合してからずっと一番仲が良い。

「長く友達やり過ぎてるとさー、やっぱり恋愛モードに変えるのって難しいよね」

 苦笑いしながらスパニッシュオムレツの最後の一欠片を口に運ぶ。三度豆の食感がコリコリして美味しい。だし巻き卵作るより簡単そうだし、これくらいなら私でも作れるかな。
 そんな事を考えていたら、私を見てさとみんは渋い顔をした。

「じゃあどうする?ずっとこのまま形だけ夫婦で中身はただの友達のまま過ごす?それとも離婚してちゃんと恋愛できる人を探す?」

「え……」

 離婚する、なんて考えてもみなかった。だって別にまっちゃんに対して嫌だとか思った事はないし。そもそも結婚したばっかりだし。
 テーブルに目を落とすと、お皿に添えた自分の左手が目に入る。
 薬指に店内の照明を反射してキラリと光る、細くシンプルなマリッジリング。普段つける物じゃないし勿体ないのでエンゲージリングは要らないと言うと、まっちゃんはその代わりにと石入りのデザインを選んでくれた。お互いの家に挨拶に行った後で買いに行ったものだ。リングの裏側には結婚式の日付とお互いの名前が刻印してある。普段目にしないから忘れていたけれど、Ryosuke・Chiakiと言う文字の並びに、あの時も「何か変な感じ」と笑いながら注文したっけ。
 常時つけっぱなしのそれは、最初こそ違和感があったもののこの二週間ですっかり私の指に馴染んでしまった。別れるという事はこれを外すという事だ。