と、八神くんがこっちを向いて、あたしに向かって大きく手を振る。
「ほら、手振ってるよ?」
理彩がニヤニヤしながらそう言うから。
『が ん ば っ て』
口パクで伝えれば、彼は嬉しそうに笑って前を向いた。
急に恥ずかしくなって、熱い頬を隠して下を向く。
理彩が笑って、あたしの背中を叩いた。
どうにもいたたまれなくなって視線を左右させると、入場門の近くで八神くんを見ていたはずのゆり先生と目が合う。
にこりと上げられた口角が、とても意味深なものに見えて、表面だけ取り繕って、目を外す。
太ももの上に置かれた拳は固くなっていて、慌てて開いた。
……何、今の笑み。
多分ゆり先生からしたら深い意味はないんだろうけど…。
この間から、勝手にモヤモヤして、目の敵にして。
…最低だ、あたし。
ピストルが鳴って、走者がスタートする。
「はっや!」
わっと沸く場内の声に顔を上げれば、コーナーを回る走者。
その中でも群を抜いて彼は速くて、一瞬でその場の……あたしの、目を奪う。
…本当に、速かったんだ。
『先輩が応援してくれるだけで、頑張れるんで』
そう言って笑う八神くんを思い出して、何かが詰まったみたいに、苦しい。
1番にくじに辿り着いた彼は、くじを引いて…
………目が、合った。



